これからどうなる年金制度…年金機能強化法案の内容【2012年5月16日】

 

パートの厚生年金保険加入はどうなるのか、今後、年金額は下がっていくのかなど、これからの年金制度についてご質問をいただくことが増えています。3月30日に閣議決定・国会提出された年金機能強化法案(正式名称は「公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律案」)の主な内容について解説します。

 
現在の法律では、老齢基礎年金を受給するためには、原則25年の受給資格期間を満たさなければなりません。25年(300月)に1ヵ月でも不足すると、年金の支給はありません。25年の受給資格期間を満たせず無年金となっている人もあり、無年金者の救済策として、25年を10年に改正するとしています。

 
法案どおりになると、現在10年以上25年未満の受給資格期間をもつ無年金者が老齢基礎年金を受け取れるようになります。
ここで注意しておきたいのは受給できる年金額です。たとえば10年の保険料納付済期間のみで老齢基礎年金の受給権が発生した人の年金額は、保険料納付済期間10年で計算されます。

 

年金額としては年額約19.7万円ですので、生活していけるだけの金額にはなりません。受給権が発生することと、生活できるだけの年金を受け取れることはまったく別問題です。受給資格期間が短縮されると保険料を滞納する人が増えるのではないかという懸念もありますが、保険料を滞納すると受け取れる年金額は少なくなります。

 

低所得者への加算(特例老齢加算)も法案にありますが、一定の所得の人に一律6000円(月額、以下同じ)、免除期間に比例して最大10,666円、計16,666円を加算するという制度です。加算については所得基準がもうけられています。世帯全員が非課税で本人の年金等収入が77万円以下という基準を満たした場合であり、誰にでも加算されるわけではありません。

 

また、本人が請求しないと加算されません。制度を知らないために手続きしない人に自動的に加算されることはありません。反対に高額所得者の年金額を調整するという案が入っています。所得550万円(年収850万円)以上の受給権者から徐々に基礎年金を減額していき、所得950万円以上を超えると、3.2万円が支給停止となる仕組みです。

 

自営業であればどんなに所得が多くとても年金全額を受け取れる、会社に勤務していても65歳以降は給料にかかわらず老齢基礎年金を受け取れるというのが現在の年金制度ですが、法改正により、所得の多い人が影響を受けることになります。
高額所得者の場合は、本人が手続きを取らずとも、市町村からの情報により、自動的に停止されます。

 

低所得者加算は本人が申請しないと加算されることはありませんが、高額所得者の場合は請求によらず停止となる点に、低所得者の制度と違いがあります。多くの人が注目しているのは、パートタイマーの厚生年金保険適用拡大です。現行では、労働時間及び労働日数が通常の職員の4分の3で適用となる、いわゆる「4分の3」ルールがありますが、改正法では雇用保険の加入基準と同じ20時間ルールを規定しています。

 

4分の3に満たない人であっても、週20時間以上、年収94万円以上、勤務期間1年以上、(学生は除く)であれば、厚生年金保険(健康保険も合わせて)に加入しなければなりません。ただし、経過措置規定に企業規模が定められており、500人以下の企業は「当分の間」除外することされます。

 

施行日は28年4月と予定されていますが、施行日から3年以内に企業規模の見直しも含めて、更なる拡大を行うことになっています。遺族基礎年金の見直し規定も法案にあります。遺族基礎年金の受給権者は、子のいる妻、または子(18歳年度末など要件に該当する子)となっています。

 

現在の法律においては、夫は遺族基礎年金の受給権を得ることができません。そこで、「妻」を「配偶者」に置き換えようというものです。法案が通ると、父子家庭にも遺族基礎年金が支給されるようになります。男女間の平等が実現できるわけです。ただし、亡くなった妻が第3号被保険者の場合は支給されないなどの規定が、別途政令で示されることになっています。

 

このほか、産休中の保険料免除についても規定が盛り込まれています。現在育児休業中は厚生年金保険料(健康保険料も同様)については本人負担分・事業主負担分ともに免除されますが、産前産後休業中の保険料免除はありません。少子化対策から、産前産後休業中についても免除するとしています。

 

これらの規定のうち、消費税引上げと連動しているのは、受給資格期間の短縮、低所得者への加算、高額所得者への年金減額、父子家庭への遺族基礎年金支給です。その他、日本年金機構の制度上の改善項目も盛り込まれています。未支給年金の請求者(配偶者、子、父母、孫、兄弟姉妹)を拡大し、あらたに「3親等以内の親族」を加えています。

 

老齢基礎年金の繰下げ支給については、70歳時点で繰下げ請求を忘れ、70歳を過ぎて請求した場合、現行では70歳時にさかのぼって支給を受けることができません。そこで、70歳時点までさかのぼって支給できるように、改善事項が盛り込まれました。(ただし、75歳までに請求しないと不利益になります)

 

他にも国民年金保険料免除の2年さかのぼり申請や、付加保険料の2年さかのぼりなども盛り込まれ、実質的に「改正」と言える項目も入っています。以上は法案ですので、決定したことではありません。

 

今後の審議に注目していきたいと思います。法案を読み取ることで、現在の年金制度の問題点を確認することもできます。何か問題で、何か必要かについて、国民それぞれが考えていくべきではないかと思います。

 

※ こちらの原稿は、ファイナンシャルプランナー向けに執筆されたコラムとなっております。

 

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≪執筆者紹介≫
菅野 美和子(すがの みわこ)

社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー

すがのみわこコンサルティングオフィス所長。女性のための年金相談室主催。
2002年独立開業以来、企業顧問の他、年金セミナーの講師、年金相談員等を
務めてきた。

京都市出身。福岡市在住。
著書 「ねんきん定期便がよくわかる本」((株)BKC)
    「年金、もっと知りたいな」((株)BKC)
    「妻も年金夫の年金」((株)日本生活設計)
    「年金1年生」(主婦の友

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家計のつぼ
執筆者:家計のつぼ