『ボルカー・ルール』発効による問答無用のポジション解消が株安の最大の原因【2012年6月6日】

 

 

世界的に株価は底値模索の動きが続いている。欧州債務危機の再燃と、それに伴うユーロ安が株安だけでなく、原油や非鉄金属などの商品安を引き起こしているのは確かだ。しかしながら、4月初めからの世界的な株価の急落は、7月に発効する「ボルカー・ルール」の影響の方が遥かに大きいと私は見ている。

 

これは米銀にデリバティブなどの自己勘定取引や、ヘッジファンドへの出資を禁止するものだ。この絡みで、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の巨人であるJPモルガン・チェースの巨額デリバティブ損失が発覚したと考えられる。CDSは国債や社債の元本を保証する保険で、期間は通常5年である。

 

この金融商品の最大の問題点は、自分が持っていない国債や社債の元本まで保証すること。このため、ギリシャ国債のCDSは、国債発行残高の5倍以上あった時期もあるという。90年代にCDSが開発されたことで、ギリシャ国債のように実際に市場でほとんど売買されないにも関わらず、相場だけが暴落するという現象が起きるようになった。

 

CDSの相場が急騰することで、原資産であるギリシャ国債の価格が暴落してしまうのだ。先物の売り崩しで日経平均株価が急落するのに似ているが、ギリシャ国債の場合は売買が何日も成立していないのに、CDSだけが毎日活発に取引されて、最終的にはギリシャ国債の相場が額面の10分の1近くまで急落した経緯がある。スペイン国債もCDS主導で急落中だ。

 

一方で、日本国債は「95%が国内で保有されているから大丈夫」とよく言われるが、CDSを使えば現物など持っていなくても日本国債の売り崩しは十分可能なのである。

 

●来年春までに財政同盟への道筋

 

 JPモルガン・チェースは90年代前半にCDSを自ら発明し、その市場規模を世界の全金融資産を上回る「京」の単位(兆の1万倍)まで育て上げた。ところが、リーマン・ショックではCDSが元凶となり、世界の金融システムが一時的にメルトダウンするに至った。

 

「投資の神様」ことウォーレン・バフェットは、CDSのことを「金融大量破壊兵器」と呼び、自社のバークシャー・ハサウェイでは売買をその後一切禁じたという。現在起こっている世界同時株安や商品安は、いわばミニ・リーマン・ショックと言っていい。

 

JPモルガン・チェースやモルガン・スタンレーのチョンボで、せっかく骨抜きに成功しつつあった「ボルカー・ルール」が厳格適用になりそうなため、投資銀行やその傘下にあるヘッジファンドが、ヘッジ取引と偽って積み上げた数百兆円単位、あるいは千兆円単位のデリバティブポジションが問答無用で解消されつつあるからだ。

 

リーマン・ショック後にCDSや投資銀行の自己勘定取引を放置した結果が、欧州債務危機の深刻化である。下手をしたら彼らは世界経済を破滅に導く恐れがあるわけで、だからこそ、ボルカー元FRB議長が1929年の大恐慌以来となる大規模な金融規制改革を提案し、「ボルカー・ルール」の制定が決まったのである。

 

話が株式相場から逸れてしまったが、ようやくユーロ圏を中心に政策当局による危機対策が始まりつつある。5日には主要7カ国財務相(G7)による緊急電話会議が開催されたが、昨年11月末に欧州債務危機がピークに達した際には、欧州中央銀行、FRB、日銀、イングランド銀行など主要国の中央銀行6行がドル資金供給策を発表。

 

その後、12月7日には欧州中銀がLTRO(3年もの資金供給)を22日に実施すると表明。これで欧州債務危機はいったん沈静化に向かった。直近では来年春までに財政同盟への道筋をつけるとしたドイツの政府文書の存在が明らかになり、なんでも反対のドイツがユーロ存続に向けて大幅に譲歩する可能性が高まってきた。

※ こちらの原稿は、ファイナンシャルプランナー向けに執筆されたコラムとなっております。

 

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≪執筆者紹介≫

 

マネーリサーチ 山本 伸
1962年生まれ。マネーリサーチ代表
85年より、経済ジャーナリスト、株式評論家として、株式、金融情報に関する
執筆活動、および講演活動など幅広く活躍していらっしゃいます。
経済情報誌「羅針儀」を主宰。
株式新聞に「山本伸の株式調査ファイル」を連載中。
著書に、『超円安』(たま出刊)、『甦るジパング』(総合法令刊)、
『60分でわかる株のツボ』(北野誠氏との共著。ベストブック)、
『山本伸が選んだ買いの株67銘柄』(宝島)など。

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家計のつぼ
執筆者:家計のつぼ